先に君を愛したなら

境界の融解

 それから数日間、男はセシルに快楽を教え込むことに注力した。ただ体を嬲られるだけでも、セシルにとっては耐えがたい侮辱だった。男の技術は巧みで、セシルを容赦なく絶頂へと導いていく。意識が白むほどの快楽を受ける度に、セシルは為す術もなく絶叫した。  だが、それだけでは男は満足しなかった。より開発を円滑に行う為に、男が特に好んで使ったのは感覚を狂わせる媚薬だった。 「ほら、今日の分だよ」 「もう嫌だ……っ、あ、う゛、はぁ……あ」 「君が薬が効きやすい体質で助かったよ。さぁ、楽しませてあげるからね」  男が手を滑らせる度、先走りが溢れる感覚の気色悪さにセシルは吐き気がした。だがそんな不快感を狂った本能は瞬く間に裏切り、セシルを快楽へと突き落としていく。思わずセシルは体を暴れさせたが、枷に繋がった鎖が鳴るばかりだった。四肢を繋ぐよう増やされた枷はセシルが快楽から逃げることを封じている。セシルの目が恐怖に見開かれる度に、男はますます愛しさを募らせた。嬲られ始めて数分もしないうちにセシルは絶頂へと叩き上げられる。自身の体が次第に堕落していくのをセシルは受け入れることしか出来なかった。  媚薬で狂わされた感覚は、肌を撫でられるだけでもセシルに痺れるような快感を与えた。その度にセシルは甘い声を洩らし、自身を嫌悪した。それとは対照的に男は行為にのめり込んだ。 「はあっ、あ、あっああっん……ぐぅ……ああぁ!」 「我慢したら駄目だ。私に気持ちいいと伝えるんだよ」  セシルの脇腹を擽りながら、固く勃ち上がった乳首に何度も舌を這わせる。狂った感覚はそれに伴う快楽を何倍にも増幅させ、セシルに容赦なく与えた。元々大した性感帯ではなかった箇所でさえその反応だ。元からの性感帯に触れられるとひとたまりもなかった。 「い゛やぁあああっ! やめえ゛っあ、ああ゛っ……はっ……あぁあああ゛ああぁ!」 「その調子。流石、飲み込みが早いね。……愛おしいよ、こんなに感じてもらえて」 「ワタシは……ぁ、やめてと、んっ、う゛あぁああっ!」  男はセシルの悲鳴を聞きながら、軟膏型の媚薬をセシルの陰茎へと擦り込んでいた。裏筋や亀頭に手加減なしに大量の薬が塗り込まれていく。早鐘のように打つ鼓動は染みこむ成分を全身に運ぶ。セシルが行為を通じて何度も絶頂に追い込まれようと、男は決して手を止めなかった。セシルの体を自分の手で変えていく喜びを、彼はようやく手にしたのだ。セシルが悲鳴と共に伝える拒絶の言葉は、寧ろその喜びを男に自覚させるきっかけにしかならなかった。  そうして息も絶え絶えとなるまで追い詰められたセシルを、男は再び抱く。男の体がのしかかる度に、セシルは息を呑んだ。媚薬が効いていても、何度繰り返されても、慣れない苦痛がセシルを蝕んでいく。先ほどまでに与えられていた快楽との落差で、余計に激しく痛みが感じられ、セシルの苦しみは増大していく。男はそんな中でも追い打ちをかけるように、セシルの体に触れていった。 「ひい゛……っ嫌だ嫌だいやだ……あ……っ触るな……ぁ!」  開発された箇所に男の指が這うと、感覚は快楽を拾ってしまう。痛苦の中に快感が混ぜ込まれ、純粋な痛みよりもより強くセシルの心を引き裂いた。 「気持ちよくなれるようになってきたね。もう少し頑張ろうか」  男が手と腰を激しく動かし、セシルは与えられる激痛と快楽に絶叫した。自分が自分ではなくなりそうな恐怖に気が狂いそうだった。悲鳴はそれに対する本能的な抵抗だったが、行為を激化させるばかりで大した効果はなかった。  男が媚薬を使い始めて数日経った頃、いつものように男がセシルを蹂躙している最中に、セシルは一際強く暴れた。セシルの爪が男の頬を切り、僅かに血が滲む。 「……痛いなぁ!」  男はすぐに頬を押さえると、セシルを強く睨み付けた。セシルはまだ自分が何をしたのかをよく分かっていないようで、焦点の合わない目で男の方を見ている。 「そんなに私とセックスするのが嫌なのか?」 「ええ」  それでもセシルの声にはまだしっかりと意志の力が残っていた。はっきりと自分を拒絶するその姿勢に、男の頭には血が昇っていく。ここまで蹂躙してもまだ足りないのだ。どこまでも自分に屈しようとしないセシルに男は苛立っていた。 「君は私のありがたみを分かってないようだな……」 「そんなもの、分かりたくもない」 「それならいい加減はっきりさせようか」  男は鎖を強く引き、決して行為を拒めないようしっかりとセシルの体を繋ぎ直す。四肢が強く引かれ、セシルは低く呻いた。だが男はそんなことは気にも留めず、注射器を数本取り出すと、次々にセシルへと注射していく。薬の効果はすぐに現れ始めた。部屋の光が異様に眩しさを増し、僅かな空気の流れが皮膚を伝う感覚もはっきりと知覚出来る。それほどまでに感覚が増しているのだと気付いた時、セシルの表情は強張った。 「普段は薄めて使ってあげてたんだがね、今日は原液だよ。それも少し多めに入れてみたんだ。どうだい、気分は?」 「こんな……っ!? う゛あぁああっ!」  セシルが答えようとした瞬間、男はセシルの肌を強く撫で、彼の言葉をかき消した。快楽に悶える様を嘲笑され、セシルの怒りはかき立てられていく。だが、それを表現する前に体は意志を裏切り喘ぐことしか出来ないのだ。すっかり勃ち上がった陰茎に男はそっと指を這わせる。それだけでもセシルは息を荒げていた。 「効果は充分出ているようで嬉しいよ。では、私の大切さをセシルに教えてあげよう」  そう言うと男はセシルの陰茎を細い紐で縛り上げた。敏感な箇所に与えられた痛みにセシルは悲鳴を上げる。 「い゛ぎ……っいだ、あ゛ぁ!? 外せっ……あ゛!」 「駄目だよ。まだ始まったばかりじゃないか」  そういうと男は爪で強く陰茎を弾いた。惨めさと苦痛にセシルは悶えることしか出来なかった。どれほど暴れようとしても、固く絞められた枷はびくともしない。セシルは抵抗も出来ずに男の行為を受け入れるしかなかった。  そのまま男はセシルの全身を丁寧に愛撫した。男はセシルの右耳を音を立てて啜りながら、両手を首と肩を伝わせて下へ移動させていく。その感覚だけでもセシルの脳裏に快感が走り抜けた。だが、それと同時に強い痛みがセシルを襲う。快楽を感じて質量を増す陰茎へと紐がしっかりと噛み付いていたのだ。汗で前髪を額に張り付かせて苦しむセシルの表情を男は感嘆しながら眺める。恐怖に沈んでいるように見えても、目にはしっかりとした意志が未だに生きている。それでも男の手が胸元を掠めると、歯を食いしばって快楽に耐える愛らしさもある。普段の数倍も感度が上がっている今、僅かな刺激さえ重く響くのだろう。その様は男の心を強く引きつけて離さなかった。男がそのまま手のひらで胸を揉むように愛撫すると、更に鎖が激しく鳴った。 「あああぁあ゛あっ! それぇえ゛いやっ! い゛いぃっ、痛いっう゛わあぁあああ゛っ!」 「乳首いじられてそんなに気持ちいいんだ。ははは、こんな状況でも腰を動かして。もう女の子なんて抱けないのになぁ、惨めだね」  男はセシルの快楽と激痛に耐える姿を嘲笑う。その間も指先でカリカリと細かく胸の頂点を嬲っていた。その度に燃えるような熱が全身を巡り、出口を塞がれた精液が暴れる。締め上げられる激痛に悲鳴を上げた直後に、快楽で意識が飛ぶ。最早セシルは男の嘲笑を理解する余裕もなかった。そのまま男の手は更に下へと移動し、固く勃起しているセシルの陰茎へと触れていく。最早包み込まれる感覚だけで、セシルは喉を晒して叫んだ。先走りが僅かに開いた尿道を強引に通り抜け、ぼたぼたと垂れている。男は口角をつり上げると、力強くセシルの陰茎を扱いた。 「う゛わああぁあああ゛あっ! あっああぁあ゛っ、……づ、う゛……ひぃああぁあ゛! や゛めっやめええ゛えぇえ!」  苦痛と快楽の根源に容赦なく与えられる愛撫にセシルは理性を投げ捨てて悶える。だが、男はそれでも飽き足らず、セシルの内部へと挿入した。 「ぎゃぁああ゛っ! 痛いっ、いだい……っ、はっ、ああ゛あぁあ……っ!」  そして男の手も止まっていない。原液の注射によってセシルの感覚は完全に狂い、激痛と同時に強い快楽も得ていた。陰茎を愛撫される度に激痛が走り、その激痛が内部を暴かれる激痛と繋がる。それと同時に走る快楽もまた内部へと繋がっていくのだ。あまりにも無様で惨い感覚にセシルはそれをせき止めようと必死に悲鳴を上げる。だが、男はそれに煽られて、ますますセシルに快楽と苦痛を与えるのだ。快感で何度も絶頂へ至ろうとし、その度に苦痛に妨害される。発散されることがない痛みも快感も際限なく高まっていくのだ。 「う゛……わあぁああああ゛! 痛い、ああっ、ああああ、やめで、外し、い゛いいぃい!」 「どうだ! 分かったか! お前は、私の許しがないと、射精も出来ない愚図なんだ! こんなに私を求めていながら、私を拒もうとするな! 分かったか! ええ!?」   男はセシルの耳元で絶叫しながら激しく腰を動かす。その度にセシルの体には快楽と苦痛がない交ぜになって走り抜けた。最早セシルは意識を保つだけで精一杯で、その肉体は男に完全に屈服させられていた。心も、体も全て暴かれるようだった。セックスとはそういうものだと分かってもいた。だが、相手と課せられている立場が変わるだけでこれだけ恐ろしい物になるとセシルは知らなかった。肉の塊がセシルを包み込み、二人の汗が混じり合って落ちる。  男は高らかに笑うと、セシルの陰茎を戒めていた縄を切った。そしてそれと同時に深く内部へと自身の陰茎を打ち付けた。貪欲に絶頂のきっかけを求めていた体にそんなことをされればひとたまりもない。 「あっ、ああぁああああ゛あぁっ!」  長い悲鳴を上げて、セシルはようやく射精した。余韻に震えながらセシルは恐怖で目を見開く。痛みと快楽を混濁していたとはいえ、内部で絶頂を迎えてしまったのだ。それだけ男の存在が自身の体に食い込んでいる証だった。それは男も理解しており、未だに男は笑っている。 「ああ……気持ちよかった? なあ、もう君の体は私の物だよ」  声も出せずに首を振るセシルを笑いながら、男は再びセシルへと手を伸ばした。好きだと何度も耳元で囁きながら、男はセシルの内部に何度も射精する。それさえも一度狂った感覚は快楽として受け取るのだ。セシルは死に物狂いで男を拒んだが、無駄だった。男は我が物顔でセシルの全てを征服していた。  何時間も経った後、男はようやくセシルの内部から陰茎を引き抜いた。セシルは反射的に身を震わせたが、それだけだ。彼の意識は混濁し、反射的に声を上げるばかりだったのだ。男は喉を震わせて笑いながらセシルの陰茎へと手を這わせる。何度も絶頂を迎えさせられたせいで精液を出し切った其れは力なく垂れていた。男がつついてもぺたぺたと揺れるばかりだ。だがそれでも快楽は感じるらしく、セシルは微かに呻いている。 「これでもう二度と恋人なんか抱けないね」  男はそう言うと、セシルに深く口付ける。既に意識を失ったセシルに、抵抗する術などなかった。

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