先に君を愛したなら
初夜
男が壁際のドアを開けると、狭い部屋があった。部屋の中央にはキングサイズのベッドが置かれている。セシルは男が何をするつもりかを察した。だが、逃げることは出来ない。男はセシルの手を取り、寝室へと彼を引きずり込んだ。そのまま男はセシルをベッドに突き倒した。
「……っやめて!」
「ははっ、まだ何もしてないよ」
男はセシルの上に覆い被さると、首筋に顔を埋めて深く息を吸い込む。微かに甘い花の香りがした。男は感嘆するように深く息を吐く。その生ぬるい息が首筋に掛かる度に、セシルは悪寒を抑えきれなかった。
その間にも男はセシルの首筋に唇を伝わせる。水音が響き、柔らかな耳たぶへと男が歯を立てた瞬間、セシルは咄嗟に体を暴れさせた。
「嫌っ!」
「ずいぶん潔癖だな。もっといろんなことを私としなくてはいけないんだよ」
男は宥めるようにセシルの頭を撫でた。だが、その仕草は上位に立った男からのマウントに過ぎないことをセシルは理解していた。
「でもそんなに嫌がられるなら仕方ないな」
男はセシルから離れると、ベッド脇の椅子に腰掛けた。セシルはいぶかしむように男を見たが、男はその視線さえも楽しみながら部屋の棚から性具を取り出した。
「ただ抱くだけなのもつまらないからね。これを使ってオナニー見せてよ」
「は……?」
呆然とするセシルに男が投げつけたのはオナホールだった。
「ほら、抱かれるのを少しでも遅らせたいんでしょ」
「ですがっ」
「あんまり口答えされると映像の一つくらい公開したくなってくるね」
「分かり……ました……」
セシルはかなり戸惑いながらベルトに手を掛けると、ゆっくりと緩めた。男はセシルの一挙一動を見逃さないように眺めている。その視線に羞恥心を強く煽られながら、セシルはチャックを下ろし、陰茎を取り出した。
「現物を見るのは初めてだな。やっぱり結構大きいんだね」
「……っ」
男の言葉を無視し、セシルは萎えている陰茎を強く擦る。最初は羞恥から力任せに扱き、鈍い痛みを感じるほどだったが、生理本能は次第に快楽を得始めた。
「ふ……っ、う……」
形を持った陰茎の先端にオナホールをあてがう。だが、オナホールに挿入する一歩手前でセシルの手が止まった。絶え間なく浮かぶ強い拒絶感をセシルは必死に噛み殺していた。男の視線は絶えることなくセシルに突き刺さる。
「どうした? 手が止まってるよ」
「はぁっ……ぐ……う……っ!」
男の命令に従い、セシルは一気に挿入した。手を止めたことで焦らされた本能が意志を裏切って快楽を貪る。憎い人間の言いなりになり、快楽を貪るしか出来ない惨めさにセシルの心は傷つけられていった。セシルは快感を得ていることをなるべく隠しながら、ゆっくりと手を動かす。その度に内部に仕込まれたローションがぐちゃりと水音を立てた。
男はその様をじっくりと視姦する。強く目を閉じて耐えようとする様、零れる吐息、乱れる髪、整った顔立ちは羞恥に淡く染まっている。どこを見ても美しいと、男は改めて感嘆した。そしてその存在はもう自分の所有物であるという優越感に酔いしれた。
「しかし、君みたいな聖人にも肉欲ってあるんだな。彼女とあんなにセックスしてたんだから当然か」
「うるさ、いっ……ぐ……ぁ……!」
脳の片隅が痺れるような感覚が走り、セシルは絶頂に至る。快感と同時に耐えがたい羞恥と屈辱感が襲う。自身の行為のおぞましさにセシルは手の震えを抑えられなかった。荒い息を吐くセシルの肩へ男は優しく両手を添えた。その丁寧な仕草がセシルにとっては余計に気持ちが悪かった。
「綺麗だったよ」
「やめてください」
「嘘じゃないのに」
男はそう言って苦笑する。言葉の意味をわざと取り違えているのだと、セシルはすぐに理解した。セシルが眉をひそめると、男は満足げに笑う。
「やっぱり君は賢いな。さっきまで自慰に耽っていたとは思えないよ」
「……」
もうこれ以上男を喜ばせまいとセシルは口を閉ざしていたが、元来の素直さ故にどうしても態度に不快が滲む。その様が男をより悦ばせていることにセシルは気付いていなかった。
セシルの乱れた髪を男は手で梳くと、再びオナホールを差し出す。
「……またですか」
セシルが暗い声で呟くと、男は快活に笑った。
「あはは、違うよ。これはさっきと種類が違っていてね。貼り付けることが出来るんだ」
男がベッドの中央にオナホールを取り付ける。その瞬間、セシルは男の次の命令を察した。信じられないと言いたげなセシルの表情を見て、男は満面の笑みを浮かべる。
「折角だし、改めて見せてもらおうかな。どんな風に彼女を抱いてたのか」
ほら、と男が促してもセシルはすぐには動けなかった。強制されている行為は単なる侮辱だけではない。セシルが抱いている恋人への愛情や信頼も嘲笑うものだった。
「意味が分からない。何故こんなことをワタシに求める?」
「煩いな。次に素直に言うこと聞いてくれなかったら本当に映像を公開するよ」
「……っ」
男が苛立った声で窘められて、ようやくセシルはベッドに横になった。従う以外の選択肢は残されていない。震える手で今にも萎えそうになる陰茎を扱くと、セシルはベッドに両手をつき、設置されたオナホールにゆっくりと挿入した。
「はっ……う゛……」
一度絶頂に至った過敏な先端は、包み込まれる感覚で蕩けるような感覚を脳に送る。その感覚に眉を寄せる動きにさえ、絡みつく視線を感じた。身動きする度に不快感と羞恥が快楽と共に弾ける。早く終わって欲しいと願いながら、セシルは腰を動かし始めた。
「おっ、最初から結構激しいね。そんな風に抱いてたこともあったんだ」
男の感心したような声がセシルには不愉快で仕方がなかった。今の自分の惨めな様子を恋人との行為に男はなぞらえて見ている。それはセシルだけではなく、春歌もまとめて穢されていることと同じだった。耐えようと噛み締めた口内に血が滲む。だがこの行為を拒めばそれ以上の苦痛が春歌や故郷の人々に降りかかるのだ。セシルはたった一人で傷つくことしか出来なかった。
「ふ……ぁう゛うぅ……!」
ゴム製の内部に精液が散っていく。しなやかな背が無意識に反り、得ている快楽を男に伝える。荒い息を吐くセシルの隣に、男は自分の体を滑り込ませた。
「ありがとう。なかなか面白い余興だったよ」
「今度は何を……っ、嫌!」
「おいおい暴れないでくれよ」
男はセシルを片手で押さえ込むと、慣れた様子でセシルのスラックスに手を入れて脱がせた。それを使用済みのオナホールと共に床へと落とした。セシルの視界の隅で、零れた精液が下着にかかっていた。
「じゃあそろそろ私も楽しませてもらおうかな。へへぇ……こんなに近くで見るのは初めてだな」
男はそういうとセシルの腿へと頬を付けて、半勃ちの陰茎を見ていた。自らの足の間にあの男の顔がある異様さにセシルは目眩がした。
「気持ちが悪い……ひっ!」
「ふふっ、気持ち良がってるね」
セシルの先端に男は唾液を垂らすと、音を立てて舐め始める。過敏な箇所に無理矢理触れられる不快感が容赦なく心を抉った。
「しょっぱくて少し苦くて、これがセシルの味なんだね。………………ああ、でもさっきみたいにあの彼女をこれで鳴かせていたのか」
「嫌だ……っ……あ……」
「彼女ちゃんの味も入っているのかなぁ……それは嫌だね。私で上書きしてあげよう」
そう言うと男はセシルの陰茎を一気に口に含んだ。
「はぁっ、うぅ……く……っぁ……」
ゴム製の玩具とは違う肉の感触にセシルは思わず声をあげた。その様子が気に入ったのか、男は目を細めるとだらだらと唾液を垂らして塗り込むように陰茎を舐め上げる。溢れ始めた先走りと唾液が入り交じり、ぐちゃぐちゃと音を立てた。
「ああぁっ、ぐ、い゛、あっ、あ……はぁっ、う」
その度に陰茎は責め立てられ、セシルの脳裏は快感で白む。咄嗟に男の頭を退かそうと伸ばされた手を男はしっかりと掴んで押さえ込んだ。身動きが取れなくなったセシルを嘲笑うかのように先端から溢れる体液を啜り、尿道口をちろちろと舌で擽る。そしてもう一度深く陰茎を口に含み、激しく扱き始めた。
「いやぁああ゛っ、あ、ぐ……っ、ぐうううぅう゛、はあっ、はぁっ、やめ……ああ゛ぁっ!」
再び絶頂に至ったセシルの精液を、男は満足げに味わった。口内に広がる苦みは目の前の青年を快楽に溺れさせた証なのだ。これを勝利と言わずになんと言うのか、と男は喉を通るとろりとした感触を楽しみながら思った。
「セシル、普段はもう少し余裕なかったかな? ああ、彼女に主導権渡してこなかったからか。可愛いね」
余韻で荒い息を吐いていたセシルは、男を強く睨み付けた。恋人との行為を揶揄されたのが気に入らなかったのだろう。男はその素直さを愛おしく思いながら、セシルの髪を掴んで顔を固定した。
「い……っ」
「はっ、処女だけ相手にして雄としての経験値積んだなんて思ってるからこうなるんだよ、セシル。分かるかい?」
「…………」
そう言われてもセシルは黙って冷たい眼差しを向けるだけだった。薄らと潤んだ明るい緑の瞳に男の歪んだ顔が映り込む。男性としての生理反応を利用され、恋人との関係を侮辱されてもセシルは気丈な態度を崩さなかった。
だからこそより男の痛烈な支配欲は煽られる。男は唐突にセシルの手首を掴むと、自身の下着の中へと手を入れさせた。セシルのしなやかな指に男の先走りがべっとりと絡みつく。その気色の悪い感触に、セシルは思わず悲鳴を上げた。
「嫌っ、やめてください! 離せ!」
「そんなこと言わないでほしいな。セシルがあんまりいやらしいから私だってこうなっているんだからね。君の責任だよ」
そう言いながら男はセシルの手に自身の陰茎をあてがう。既に固く勃ち上がっているそこは、セシルの指が触れる度にどろどろと体液を溢れさせた。指の間に熱い液体が絡む感触にセシルは総毛立った。
「離し、て!」
セシルは力任せに男の下着から手を引き抜いたが、男の手は未だにセシルの手首を拘束具のように掴んでいる。男はセシルを見て口角をつり上げると、体重をかけてセシルの上にのしかかった。そのままセシルの手を自身の手を組み合わせてしっかりと握りしめる。セシルの手に絡みついていた体液が男の指と触れ合い、汚らしい水音を立てた。
「恋人繋ぎだね」
「アナタとは恋人でも何でもない」
「冷たいなぁ。まあいいや、本当に綺麗な指だね……」
男はセシルの指へと舌を這わせていく。ぬるぬるとしか感覚が這い、セシルは息を呑む。
「さて、随分と可愛がってあげたし、そろそろ私のことも楽しませてもらおうかな」
男の言葉を聞いて、セシルは明確に身を固くした。繋いでいる手が僅かに震え、セシルの内心の不快と恐れを男に伝えている。その対象が自分である優越感で男の胸ははち切れそうだった。
「私の陰茎にキスしてごらん、セシル」
「…………はい」
男は手を繋いだまま起き上がると膝立ちになって、セシルの眼前に股間を突きつける。下着越しでも怒張した陰茎の形がはっきりと見えた。不快感にセシルは思わず顔を顰める。だが、命令に従う為に、セシルは男の下着に手をかけようとした。しかし男の指は未だにセシルの手をしっかりと掴んだまま離さない。
「離してください」
「手を使わずにやってみて」
男の命令にセシルの眉間の皺は更に深くなった。拒否感が内心で沸き起こる。それでもセシルは自身を叱咤し、男の下着の端を口に咥えた。布越しに男の陰茎の熱が頬に伝わり、それだけで吐き気がこみ上げる。セシルは深く頭を下げて男の下着を引き下ろした。
「上手だ。さあ、キスして」
男は露わになった陰茎を改めて見せつける。規格外に膨れ上がった陰茎はだらだらと先走りを流している。これに口付けなければいけない事実にセシルは目眩がした。だがこれ以上男の機嫌を損ねることは許されていない。
(すみません……)
脳裏に浮かぶ愛おしい姿にセシルは祈るように謝罪した。
そして深く息を吸うと、男の陰茎に口付けた。目を閉じて口付けるその様は恭しく、神聖ささえ感じさせる。ああ、幾度となく見た顔だと男は思った。映像や写真を通じて何度も見せつけられた恋人と睦み合う時の表情そのままだった。だが、あの時とは違い、この美しい存在は今自分だけに捧げられているのだ。そう考えるだけど男は射精しそうだった。そしてそのまま男は一気に腰をセシルの顔へと打ち付けた。
「うぐぅっ!?……げぇ、げぼっ、ごほっ! やめ゛ぇ!」
唐突に肉の塊で喉奥を殴られ、セシルは悲鳴を上げた。目は驚愕で見開かれ、男が腰を動かす度に頬が歪む。先ほどまでの落ち着いた様子との対比に男は高らかに笑った。その間も男の陰茎はセシルの口内を蹂躙していく。若々しく張りのある筋肉が陰茎を包み込み、酸素を求める喉が締まる度に亀頭が扱かれる。
「気持ちいいよ、セシル。歌うだけじゃなくてオナホとしても使えるなんて多才だね」
その発言にセシルがいかに怒りを覚えようと、喉奥を亀頭が殴る度に酸欠と吐き気で思考が塗り潰されていく。そしてその様を男は存分に嘲笑った。あれほど美しい歌声を響かせていた箇所が自分の陰茎を扱いている背徳と優越、それだけで最高の快楽だ。美しいものを穢していく退廃、それは男がこれまで体験したことのない喜びだった。
「ああ、やっぱり君はいつも私に人生の喜びを教えてくれるね。ありがとう、ありがとう! これはお礼だよ!」
男の両手が暴れるセシルの頭を押さえ込み、喉の最奥で男は絶頂に至った。濃厚な精液が腐臭と共に広がっていく。吐き出そうと懸命にセシルは抵抗しようとするが、溢れる精液は喉を通って胃へと流れ込んでいった。その間もセシルは息を継ぐことが出来ず、酸欠と嫌悪感、吐き気で脳裏が白む。長い射精が終わり、男がようやく陰茎を引き抜いた瞬間、セシルは激しく咳き込んだ。
「う゛ぉえっ! げほっ、ごほっ、げぇえ゛ええっ……おえっ!」
「あ、吐き出したら駄目だよ」
その言葉を聞いたセシルは涙目になりながらも、こみ上げる吐き気を呑み込む。それに従って口内に残っている精液の残滓が体内に取り込まれていった。その感触だけでセシルは気が狂いそうな拒否感に苛まれる。
悶え苦しむセシルを見て男に浮かんだのは痛烈なまでの支配欲と喜びだった。男はセシルの肩を片手で掴むと自分の方を向かせる。涙や唾液などの体液で汚れたセシルの顔が露わになった。酸欠からか頬は赤く染まっており、潤んだ瞳から流れる涙もそのままに荒い息を吐いている。普段の彼の様子とはかけ離れた、どうしようもなく無様で扇情的な姿だった。男はセシルの腹に手を乗せると、耳元で囁く。
「私のことを感じろ。今、腹の中に私がいるんだよ。私と、君だけなんだよ。わかるだろう、どれだけ素晴らしいことか……私がどれだけセシルを愛おしく思っているか……」
セシルは未だ咳き込みながらも、必死に首を振った。男の言いなりになるしかなくても、その悍ましい言葉を少しでも否定ようという意志がそこには見えた。だが、その気高さは男を痛烈に煽る。男は小さく舌打ちをすると、セシルをベッドに突き倒した。そしてローションを取り出すと、自身の陰茎にべったりと塗りつけた。そしてセシルの腿を両手で掴むと、大きく開かせる。ローション塗れの手が臀部を撫でた瞬間、セシルはこれから何をされるのかを理解した。頬に僅かに残っていた赤みが瞬く間に失われていく。
「どうかやめてください。……アナタは狂っている」
「君が狂わせたんだよ。いや、……正常に戻してくれたのかな。恥ずかしながら、心から好きだと思う相手とセックスするのは初めてでね」
そう言うと男はセシルの後孔に指を押し込んだ。
「い゛っ……ぁ……!」
激痛と恐怖で思わずセシルは声を上げる。思わず体を暴れさせようとしても、男はセシルの足の間に体を押し込み、逃れられないように押さえ込んでいる。内部を拡張される苦しみをセシルは受け止めることしか出来なかった。男に強制された行為と痛みでセシルの陰茎は萎え、彼が身じろぎする度に力なく揺れた。その様にも愛おしさと興奮を感じながら、男は力任せに指を引き抜く。そして衝動のままに自身の先端を後孔にあてがった。
「ごめん……もう我慢できそうにないな……!」
「いや゛……っ……ぁ……や……め……」
セシルは激痛に潤んだ瞳で男を見上げながら、最後の懇願を絞り出す。その表情はセシルの意図に反して、男の支配欲を痛烈に煽った。男は突き動かされるように、セシルの内部へと陰茎を押し込んだ。
「ぎい゛っ、あ゛あぁあ! 抜い……っあ゛!」
「やっと一つになれた……! 嗚呼、ああ、これが本当の幸せなんだ、私は何も知らなかった……!」
「やめぇええ゛っあ、ああ゛、ああぁあああ゛あっ!」
セシルの内部は男の長大な陰茎を収めるにはまだあまりにも狭すぎた。男が腰を動かす度に切れた傷口から血の臭いが漂い、セシルの痛苦に満ちた悲鳴が洩れる。
それとは対照的に男が味わっているのは人生最高の快楽だった。強く締め上げられる陰茎の感覚も、聞こえるセシルの悲鳴も、悶えるその表情も、全てが男を天国へと導いていく。
「世の恋人達はこの感覚を味わっていたんだな……、嬉しい。嬉しいよ。こんな世界があったなんて……教えてくれてありがとう……! やはり君は最高だよ……セシル……っ……!」
「いいから……っ離せ、……はぁ、はあ゛ぁっ、う゛ああぁあ゛あ!」
セシルの必死の懇願も男にとっては天上の音楽とさして代わりはしなかった。男は何度もセシルの頬に口付け、ギリギリまで引き抜いた後、杭を刺すように挿入していく。その度に後孔は切り裂かれ、激痛がセシルを苛んだ。痛みに耐えようと必死に掴んでいるシーツには血が垂れ、皺が寄る。その痛ましい様を見ても男は満たされる支配欲と喜びに打ち震えるだけだった。
「あああっ、出すよ! 直接出す! 本当に私は幸せ者だ、やっと生きていられる! 愛してる、愛しているぞ!」
男の言葉と内部の異物が膨らむ感覚に、セシルは本当の危機を悟った。残る体力をかき集めて、セシルが死に物狂いに暴れようとした瞬間、汚らしい音を立てて熱い感触が広がっていった。
「あ……あ゛ぁ……」
セシルが脱力して四肢をベッドに投げ出す間も、男は執拗に精液をセシルの内部にすり込んでいた。男が腰を動かす度に、血やローションと入り交じって精液が垂れていく。
「分かるか? これが私の遺伝子なんだよ、私の一部だ。それがセシルから溢れているんだ……あははっ、産まれ直しの儀式のようじゃないか! 私はセシルを通じて新しく産まれ直したんだ……今日こそ、私の本当の誕生日だ!」
悪夢のような男の叫び声を聞いているだけでセシルは目眩がした。その間も男に自身が穢されている感覚が溢れていく。地獄だった。今のセシルにあるのは未だに強く切り裂かれる痛みと、男への恐怖だけだった。この狂気が自分だけではなく、周囲に向くことがセシルは何よりも恐ろしかった。
男の狂気をはらんだ目がセシルを映す。かつて見たことないほど輝いている瞳は、遂に手に入れた生きる喜びに踊っていた。男はうわごとのように自身の愛を囁きながら、我が物顔でセシルを抱いていたが、セシルは最早意識を保つのが精一杯で、男の言葉など聞いていなかった。だが、男にとってはそれも些細な問題だ。新たな生きる目標が出来たのだから。
この美しい存在の全てを手に入れる。それこそ、男が新たに見いだした生きる喜びだった。
次回更新は7月末~8月初旬辺りかも。もう少し早く書けたら嬉しい。
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