たくさん愛してください
花婿の資格
そのまま男は何日もかけてセシルに後孔で抱かれる快楽を教え込んだ。最早薬を使う必要もないほどに感覚は狂い、指先が入り込むだけでも声が漏れてしまう。男の慰み者に堕ちた事実と申し訳なさにセシルは引き裂かれる寸前だった。避妊具の袋が開けられる音を聞くだけで、声も無く血の気が引いていく。強制的に刻み込まれる快楽は苦痛と何ら変わりない。肉体的な痛みが精神的な痛みにそのまま置き換えられただけだ。
「ああ゛ああぁっ! あっ、い゛、ぎいいいいぃ! はっ……ぁ……ああっ!」
「絶景、絶景。すっかり立派な淫乱になっちゃったね」
セシルは男の上へ跨り、自ら腰を動かしていた。それを強制している男は床に寝転び、羞恥に染まっている表情を存分に眺めている。静寂に包まれた部屋に結合部から水音が響いた。それに合わせるように漏れる嬌声をセシルは最も恥じていた。
だがセシル自身のペースなど微塵も考えられることなく、擦り込まれる快感に声を抑えることなど、とうに出来なくなっていた。息を吸うだけでふいごで空気を流し込むように躰の熱が燃え上がる。頭上から落ちてくる汗を男は満足げに舐めとった。
抵抗も出来ず全身を紅潮させるセシルの瞳はやや虚ろだ。そこには男の姿も含めて具体的なものは何も映っていない。だが、愛や喜びという抽象的なものが宿っている訳でもなかった。暴れることさえ出来ず、ただ男に奉仕しているという事実を噛みしめ続ける地獄。
「こんな姿を彼女ちゃんが見たらどう思うだろうね?」
「……っ!」
男が春歌に言及した時だけ、セシルの目に光が戻る。これほどに無様で浅ましい姿を他の誰よりも見られたくない。だがそれと同じ位にセシルは春歌に焦がれていた。
尊厳も自由も何もかも奪われた状態でセシルの命を唯一繋ぐ望み。もう一度あの優しい瞳を覗き、ほころぶような微笑みを見たい。そして彼女の細い躰を胸に抱いて音の海に耽溺出来るのならば、最早セシルは何を棄てても良かった。過去の眩い記憶と与えられた肯定がセシルを支え、男の罵倒から耳を塞ぎ、永遠にも思える苦痛に耐える為の唯一の道標となっていた。
そしてそれは男も痛いほどに分かっていた。男が春歌について言及するのは、セシルに新鮮な反応を取り戻させる唯一の手段だからだ。それが男にとって気分がいい訳がない。幾ら躰を抱いてもセシルの精神は一向に堕ちてこようとしなかった。深く傷つけ貶めようと完全には手中に収まらない理由など分かり切っている。いつまでも心に居座っている面影が憎い、その一心で男は激感に耐えるセシルを見上げていた。
先走りを溢れさせている陰茎を掴み粗雑に扱き上げると、セシルは背を弓型に反らせて絶頂した。胸を突き出すような姿勢になると肥大した乳頭が良く見える。小指の先ほどに肥大した其れは神秘的な彼の顔立ちからは想像出来ないほど淫靡だった。
陰茎はそれなりの大きさだと自負していた男のそれよりも大きく、腰を動かす度に無様に跳ねる。男女が快感を分かち合い、次へ繋げる為の場所が役目を果たせていない光景。男にはそれだけでも小気味良く思われたが、いい加減にセシルから全ての希望を奪ってしまいたかった。
腰の動きを止めさせ、ゆっくりと裏筋を擦るだけでセシルは荒い息を吐いた。
「本当にセシル君ってチンコでかいねぇ……。だけどもう僕以外とセックスもしないだろうしさ、こんな使い道が無い部位なんていらないと思わない?」
「……っ………は?」
男は手を伸ばし、部屋に転がる段ボールから小瓶を取り出した。薄青に光っているその液体がまともな物ではないことをセシルはすぐさま理解する。内心の怯えを隠しきれていないセシルに男は得意げに口を開いた。
「……ずっと使いたかったんだ。これはね、海綿体を縮小させるお薬。縮んだ分感覚神経が密集するから感度もずっと上がるんだって。即イキ短小の粗チンにするお薬って言えば分かるかな?」
その効果に思わずセシルは息を呑んだ。その様子こそ男が最も見たいものだと分かっていても止められない。不可逆な肉体改造への恐怖。男としての証も感覚も傷つける横暴が間近に迫っていた。
「流石にセシル君も分かるよね? 後ろでもイケるようになったし、もう僕の女になるしかないんだよ」
「ふざけないで……いやあ゛っ! そんなことしないで下さいっ、離して! やめてぇえっ!」
「はいはい、春歌ちゃん抱くための巨根にバイバイしてクソ雑魚クリトリスになろうねぇ」
男が蓋を開け、中身を陰茎に垂らすとすぐに変化が現れた。一瞬感じた液体の冷たさが過ぎると、焼けるような熱さが下腹部全体に広がっていく。男の指が薬を塗りたくる感覚に全神経が意図せずとも集中していた。その度にこれまでとは比べ物にならないほどの、重い快楽が脳髄に直撃した。
「うわあ゛あ゛あぁあああ゛ああぁああああ゛っ! いやっ! お願いやめて、くださああ゛っ! むりぃい゛いいい゛! わらひが、ごわれっ……お゛っ、ああ゛ああぁあああ゛ああっ!」
半ば狂気が滲んだ絶叫が部屋に響く。今までとは格段に異なる切羽詰まった悲鳴に男は微笑んだ。凄まじい勢いで精神が削り落とされる恐怖と苦しみ、それに伴う強烈な快感がその悲鳴に滲んでいた。神経に直接焼き鏝を押し付けられるような衝撃。躰の一部を確実に破壊されている感覚が、決して忘れられないように脳裏に刻み込まれていく。
その行為に伴って強制的に与えられる被虐的な感覚にセシルの精神は滅茶苦茶にされていた。口の端からは唾液が零れ、喉、胸と伝って、溢れ出る下半身の粘液と混ざり合う。漸く男が手を止めると、セシルは糸が切れたように床に倒れた。
男は立ち上がると大の字で横たわっているセシルの下腹部を覗き込んだ。精液を出し切って萎えているセシルの陰茎は見るも無残に様変わりしていた。弱々しく残滓を垂れ流す其処は大きさが半分以下になるまで縮み上がっていた。いかにも使い込まれていた色も薄くなり、陰茎というよりも子供の親指と言った方が正しかった。皮だけはそのままの状態を保ち、余った部分が巻き込むようにして垂れ下がり亀頭を完全に覆い隠していた。
「ああそっか。縮んだのは海綿体だから皮の大きさはそのままなんだ。……うわぁ、皮が本体の二倍以上あるじゃん。これ元々ご立派様だった子ほど差が酷くなるんだなぁ。せめて皮まで一緒に縮んでくれたらずる剥けのままではいられたかもしれないのに可哀想だねぇ」
握るというよりも摘むようにして陰茎に触れるだけで、セシルの躰は弾かれたように跳ねる。少し視線を下に向ければ見慣れていた自身の躰が淫猥に作り替えられた様がよく見えた。
「ちっちゃかった乳首はデカくなって、デカチンはちっちゃなおチンチンになって、二度と人前で服脱げない下品な躰になれて良かったねぇ」
そのまま皮を軽く擦っただけでセシルはあっさりと絶頂した。男はセシルと指を絡めると自身の陰茎を擦り付ける。兜合わせの姿勢になると男との差が嫌でも理解出来た。明らかに自分より男性として優れていた青年をここまで陥れた優越感に男は心から打ち震えた。
ただ男としての尊厳を叩き壊しただけではない。例えセシルが自分の手から抜け出すようなことがあったとしても、彼の支えだった営みに深刻な影響を与えてやったのだ。回数を何度も重ねている春歌はセシルのそれに慣れきっているに違いないだろう。だがもう二度と、セシルが以前のように彼女を満足させられないのはどうしようもない事実だった。ただでさえ神経が密集し激感が流れるような箇所に、腰を押しつけられるだけで視界が白む。互いの先走りと精液が混じり合いぼたぼたと床へ垂れた。
「すっかり早漏になっちゃって、もうこんなの挿れただけでイッちゃうんじゃない? まあ挿れた所でこんな粗チンじゃすぐ抜けちゃうと思うけどさ、二度と彼女とセックス出来ない躰にされちゃって可哀想に。……ああでもそれは元からかな。こんな汚いおっさんと春歌ちゃんの大事な粘膜間接キスさせたくないもんねぇ!」
男が発した言葉はまさに図星だった。こんなにも厭らしく男に染められた躰を春歌に触れさせることなどセシルに出来る訳がない。何よりも汚らしく浅ましい存在に堕ち果てた悔しさにセシルの躰は震えていた。
「もうやめてください……! 何も言わないで……聞きたくない……」
自らが崩れていく恐ろしさにセシルは思わず耳を塞いで目を閉じる。最早彼の躰は見る影もない。本格的に男の元へと閉じ込められていく事実に、彼は子供のように怯えていた。だからこそ男は嬉々としてセシルを蹴り飛ばし、その躰にのしかかった。
「何俯いてんの? しっかり目ぇ開けて現実見るんだよホラ! 立派な男の証もなくなって雌くさい躰になった記念のセックスしようね!」
「嫌だぁっ! やめて!」
男の陰茎が肉を抉り、両手が表皮を這っていく。勃起しても大してサイズの変わらない陰茎への嘲笑と絞り出すような嬌声は異臭を放つ部屋に部屋に冷たく反響した。
セシルが目を覚ますと周囲には誰もいなかった。痛む腰を庇いながら徐々に身を起こす。あのまま男に抱き潰され、壊された感覚で何度絶頂に上り詰めたか数えたくもなかった。記憶も切れ切れで、はっきりと思い出すことも出来ない。無理に皮を剥かれて扱かれながら背後から滅茶苦茶に揺さぶられ、誇りも尊厳も気にかける余裕さえ与えられなかった。涙を零しながら喉を震わせて絶叫し、頼むからやめてほしいと懇願したのが気を失う前の最後の記憶だ。
与えられた恐怖も、痛みも、苦しみも、全てが夢であってほしいと何度祈ったか知れなかった。張り詰めた心は最早限界寸前だ。たった一人に縋って泣き喚くことが出来ればどれほど救いになっただろうか。男の支配下から逃げ出す方法も分からず、抵抗すればするほどに事態は目に見えて悪化していった。衰弱した躰は眠った所で身を起こすのが精一杯だった。少し動けば開いた傷口から血液が流れる。
その気色悪い感触にセシルは柳眉をひそめた。それと同時に、ドアの開く音が響きセシルは躰を硬直させる。怖々と視線を動かすと荷物を抱えた男が玄関から入ってくる所だった。
「もう起きたんだ。早いね」
今日はちょっと趣向を変えようと思ってさ、と呟きながら男はダンボールの蓋を開ける。中に入っていたのはプロジェクターだった。仕事柄慣れた様子で機器を繋ぐと男はセシルに手を伸ばす。再び性を穢されることを直視出来ず、セシルが目を閉じた瞬間、部屋に悲鳴が響いた。
〈うげぇええ゛えええっ! あっあっあ゛あっ! おっ……がぁ……は、はあ゛あああぁあ!〉
思わずセシルが目を開くと、壁一面にはセシルの痴態が映し出されていた。画面内のセシルは声を堪えることも出来ずに無様に喘いでいる。それを見るセシルの顔からは見る間に血の気が失せていった。
「ずっと撮り溜めしてた映像だよ。セシル君の雌顔可愛く撮れてるでしょ?」
「……っそんな」
映像のセシルは顔を紅潮させ、唾液を垂れ流しながら絶叫している。快楽に解け切った己の浅ましい姿に耐えられず、セシルは目を逸らした。
『目を逸らしちゃダメだよ、折角撮ったんだから。今日は二人でゆっくり鑑賞会しようね』
だが男はセシルの背後に回ると、顎を掴んで画面へと向けた。男の力でセシルは自らの卑しい姿から目を離すことも許されなかった。
「こうして見るとセシル君ってド淫乱だよねぇ。そう思わない?」
「ワタシは違う! アナタのせいでこんなっ!」
「まだそんな怖い顔出来るのは尊敬するけどさぁ……。セシル君がド淫乱じゃないって言うならこういうことしても君は全然平気ってことだよね?」
「はっ……それ、は……っ」
男は嗤いながらセシルを押し倒すと陰茎を挿入した。開発され尽くした其処は慣らされもしない行為でも快感を拾い、再びセシルを追い詰めていく。手足を強く押さえられるだけでも、快感だった。強い被虐感を伴う行為に屈辱を感じながら乱れる姿に男の腰は早まっていく。
次第に息が乱れ、爪先が丸まり、また悍しい絶頂へと叩きつけられる――そう感じた瞬間、男はセシルの耳元で囁いた。
『イクな』
「はぅ! …………っ、う゛うぅ!」
その命令が下された瞬間、セシルから絶頂の感覚だけが取り上げられた。限界まで熱された躰が冷水を浴びせられたように醒めていく。精液だけが感覚を伴わず、無意味に飛び散った。
「あっ……え、何故……」
「セシル君が意地張るからさ。暫く泣こうが喚こうがお預けだからね。淫乱じゃないなら余裕だよねぇ」
男は唇を吊り上げるとセシルを背後から犯し始めた。中途半端に残った熱が再び燃え上がり、セシルから体力も気力も奪っていく。
「ひぐっ……うあ゛っあっ、あ、あああ゛ああぁっ!」
だがそれが頂点に達しようとするその瞬間に全ての感覚が途切れる。あるべき筈の感覚が無い違和感に戸惑いを隠せないセシルを暫く眺めると、男は容赦なく腰を動かし始めた。
「いぎゃああぁぁあああ! やめえ゛っ! もう、ふぐうう゛ううぅう!」
それがどれほど恐ろしいことなのか自覚した瞬間には全てが遅かった。もう男は動きを止めずにセシルを快楽へと突き落とした。絶頂する寸前の最も気持ち良く、最も苦しい瞬間に縛られた躰は容赦なくセシルを弄る。
仮初の満足さえ得ることも出来ず、凌辱に伴う寒気がするほどの性感と屈辱だけを延々と味合された。苦痛と紙一重の快楽に耐えようとセシルは無意識のうちに男にしがみついて、精液を惨めに噴き散らす。だがそれに伴う満足感だけは、セシルは決して得られない。誇りも想いも関係ない人間の根源的欲求を穢す拷問。ただ苦しく、辛く、歪んだ嬌声が溢れた。その悲惨な姿に男は更に興奮を煽られる。
少しでも気を抜けば胸元と股間に両手を伸ばし、最後の一押しを得ようとする躰をセシルは必死に叱咤した。膚に食い込んだ爪から血が流れる。
「ひいい゛いいぃっ! はぁっ、はぁっ、はぁあああ゛ああぁあ! またっ! Non! のお゛っ……なん、で……うわあぁああああ゛ぁあっ!」
生理的な涙や鼻水まで流しながら、セシルは一方的に流し込まれる快楽に耐えていた。ここまで乱されても未だに抵抗をやめない態度を崩そうと、男はより強く前立腺を突き上げる。その度に勃起しても包皮から出ることも叶わない陰茎は絶頂感の伴わない射精を繰り返した。皮の内側を白濁が流れる感触さえも快楽へとセシルを引き摺っていく。
発情しきった躰は意志を無視して死にもの狂いで絶頂に至ろうとし、飛躍的に過敏になっていく感覚は更にセシルを追い詰める。乳頭はそそり立ち、男がそれを弄ぶだけで悲鳴が響いた。狂おしいまでの飢餓感が襲う。高まったままの体温が、脳ごと焼き尽くしているような錯覚まで抱いた。辛く、苦しい時間は長く延びていく。
それが解消されるまであと一歩だと分かっているのに、寸前の最も苦しく、最も気持ち良い位置に踏み留まされている。だからこそ男の一挙一動に意識が集中し、与えられる快楽だけが強くなってセシルの精神を焦がした。
〈ああぁああぁっ! ん゛っ! はっ……うぐう゛ううぅうっ、やめでっ! いやぁああぁ!〉
「あ゛あぁああぁっ! だすけっ、で……うわぁあ゛あぁああ! もうむりです! あ゛あぁあ!」
快楽に染まり切ったセシルの嬌声と、快楽に弄られるセシルの悲鳴が同時に響く。耳を塞ぎたくなるようなはしたない嬌声を聞きながら、今の自分もこんな声を上げていると思うと耐えられなかった。だがそれを恥じる余裕さえすぐに失われ、再び己を殴る陰茎の感触に翻弄される。
それどころか男に抱かれ、絶頂感を貪っている過去の自分を見せられているセシルの眼差しには僅かに羨望の色が滲んでいた。それに気づかないセシルではない。幾ら追い詰められていても、男の与える快楽を彼が本気で受け入れたのは事実だ。それに対する恐怖は並大抵の物ではない。一瞬だけでも、確実に浮かんでしまった感情は裏切り以外の何物でもなかった。例えそれが辛い責め苦から逃れたい一心でのものだったとしても。
「いや……ぁ……っ! もうやめて、くださっ…………」
「今更止めた所でさぁ、もう意味ないと思うよ。同じ男に犯されて感じまくって。僕が同じ立場だったら恥ずかしくてとっくに死んでるね」
男は息も絶えそうなセシルの肢体を存分に眺める。苦痛と快楽の狭間で限界まで追い詰められ、全身からあらゆる体液を垂れ流している姿はあまりに淫らだった。
「こんな男失格の状態で、あの子どころか世界中が君を愛することなんかないんじゃない? いい加減諦めなよ。僕はセシル君のこと誰よりも愛してるよ」
セシルの唇に男がむしゃぶりついた瞬間、絶頂制限が解除された。急に解放された感覚に、セシルの躰は一瞬だけ正常な感度を取り戻した。だがそれは不吉な前兆に過ぎない。今まで溜め込まれていた熱は堰を切り、津波のようにセシルへと襲いかかった。
「あ゛っ……!? ああぁあっ、あ゛あ゛あぁあああっあ゛あああああぁあ゛っ!」
痩せ細った躰は弓型に仰け反り、獣のような絶叫が響き渡る。男の前で耐えようとする意識ごと快楽は押し流していった。陰茎からは連続して白濁液が溢れ出る。
そうして絶頂に登り詰めている間にも男は休みなくセシルの躰を弄り、限界まで高まった感度は次の頂まで矢継ぎ早にセシルを押し上げる。制止の言葉さえ紡ぐことも出来ず、押し寄せる快感を少しでも散らす為に、喉を震わせてセシルは絶叫していた。その姿は際限なく流れているどの映像よりもずっと厭らしく淫らだった。
はっ、と息を漏らすとセシルは遂に意識を失った。濁り始めていた美しい瞳が瞼に閉ざされる。脱力し、汗に塗れた躰が無防備に横たわっていた。疲労が色濃く残る表情は受けていた責め苦の凄惨さを鮮明に伝えている。
あまりに悲惨な有様にも構うことなく、男はそのまま暫くセシルを揺さぶっていた。しかし意識が戻らないのを見ると舌打ちし、その躰を引き摺っていった。