そして光は灯された
光芒
時計を見ると、十四時を少し回っていた。
「もう練習の時間か。たくさんの先生に囲まれてレッスンって訳にはいかないが、まあ勝手にやれよ」
「……ありがとうございます」
まさか本当に練習の時間が貰えると思っていなかったらしい。セシルは二三度目を瞬かせると、ゆっくりと立ち上がった。
「鞄を返してくれませんか? 練習に必要な物が入っています」
「駄目だ。お前が何するか分かったもんじゃないからな」
「では鞄からワタシが言う物を取り出して、こちらにください」
さっき俺へ見せた哀れみの感情すら無く、ただ冷静に要求をしてくるセシルはかなり不気味だった。こんな状況下なのに、いや、だからこそなのか、一分一秒も無駄にしたくないという意志だけが見えていた。これ以上セシルに何か言われたくなくて、あいつが口を開く前に、小型のメトロノームにスピーカー、楽譜とかをひとまとめにして手渡した。セシルはすぐに練習着を身につけるとストレッチを始めた。褐色の腿に伝っていた血と精液は瞬く間に覆い隠されてしまった。
逃げたらどうなるか脅そうとする気にもなれなかった。逃げても無駄なことを既にセシルは理解している。その上で俺を恨むでも自分の境遇を嘆くでもなく、あいつは練習することを選んだ。
どうせまともに練習なんて出来るはずないから散々笑ってやろうと思っていたのに、実際は口を挟むことさえ出来なかった。仮に俺が何か言ってもセシルは聞く耳を持たなかっただろう。
俺の目の前で練習は進んでいく。その密度は圧倒的だった。セシルがそれほど得意としてないダンスでさえ、練習の段階で現役時代の俺と比べても格が違う。今自分がどう見えているのか、それらを常に計算に入れて動く流れるようなステップから目が離せない。優美さの中に色気が見えるなんて、芸能雑誌に掃いて捨てるほど書かれたセシルのステージ評を俺は今更のように思い出していた。
練習が歌に移ると、もう俺にとっては苦行でしかなかった。びっしりと書き込まれた楽譜を捲って、セシルは表現の可能性を探っていく。セシルがここまで上り詰めたのは才能だけじゃない。努力の質から違っていたのだ。才能も努力も、俺とセシルは次元が違う。そんな事実を思い知らされる。セシルのステージは何度か見たことがあったが、間近で見ると迫力が、スケールが、全てが違った。こんなアパートの一室には収まらない、大ホールで披露される為のパフォーマンスがそこにあった。
どうにも出来ない差が、これ以上無いほど俺を苛つかせた。目の前で限りなく飛翔していくセシルを叩き落としたくて仕方がなかった。予定していた練習時間が終わった時、俺は駆け寄ってセシルの腕を強く引いた。
「時間だ。早く止めろ」
「……はい」
道具類を回収して鞄に粗雑に戻すと、セシルの腕を引いて風呂場に連れ込んだ。練習着を強引に脱がせ、現れた薄汚れた腿を見て俺は漸く息を吐いた。練習で動いたことで内部から溢れた精液は、褐色の膚により色濃く浮かび上がっている。圧倒的なパフォーマンスが出来たとしても、一枚剥けばこの通りだ。
「汚いな」
「…………」
セシルも自覚していたのか、肩を僅かに震えさせた他は何の反応も返さなかった。脱がせた練習着を脱衣所へと投げ捨て、洗い場でセシルを押し倒すと腿に手を這わせる。膚に張り付いている汚液と汗が擦り合った。セシルは小さく呻きながら、これから襲うだろう痛みに備えて目を閉じている。俺はシャワーヘッドを手に取ると、汗に濡れた顔へ冷水をぶちまけた。
「うわぁっ!? いやっ、嫌です! やめてください!」
「ははっ、水が怖いのってキャラ付けじゃなかったのか」
必死に顔を背けようとするセシルの髪を強引に掴むと、そのまま床に押しつけた。水が気道に入ったのか、セシルは激しく咳き込んでいる。熱を帯びていたあいつの躰があっという間に冷えていった。頭から手を離して片手で尻を割り開き、そのまま指を押し込んでいく。
「やだっ! ゲホッ……ゴホッ! ぐっ、い゛ ……オエッ、ああ゛ぁっ!」
セシルは水を吐き戻しながら、俺が与える痛みに悶えていた。暴れようとしている脚を肘で押さえて、強引に指を増やしていく。傷口が開いたのか、排水溝に流れる水には血が混じっていた。蛇口を閉じてシャワーノズルを放り出す。ずぶ濡れになったセシルは両腕で顔を庇った体勢のままで呻いていた。
「愛島セシルが使ったシャワーの残りを掛け流しなんて贅沢な話だよな」
せせら笑いながら指を引き抜くと、やっぱり血が付いていた。セシルの陰茎は冷水を浴びたこともあって、完全に萎えている。腕に覆われた表情こそ見えないが、セシルが感じているのは痛みと苦しみだけだろう。その事実に仄暗い優越感を抱いたまま、俺はセシルに陰茎を押し込んだ。
「う゛うぅっ!」
セシルは自分の躰に爪を立てて、痛みに耐えていた。それとは裏腹に俺が感じているのはキツく締め付ける内部の心地よさだけだ。この瞬間は俺が上位者だった。俺に奉仕し、苦しむことだけがセシルの存在意義になる。歓喜にも似た衝動に従って、俺は腰を動かし始めた。
「いい゛いぃっ! はぁっ、あ゛……うわあ゛あぁ! い゛たっ……ぐ……うう……あ゛ああぁっ!」
抑えようとしても抑えられない痛苦が滲む悲鳴が響く。どうしようもなく興奮した。顔を覆っている腕を強引に払いのけると、必死に目を閉じて耐えている表情が見えた。奥を抉る度に、噛み締めた唇からは悲鳴が洩れて、目尻には涙が滲んでいる。普段の達観したようなあいつの顔からは想像出来ない姿だ。追い詰められたセシルの表情は案外あどけなくて、俺が失いつつある若さに満ちている。こうしてセシルを追い詰めて穢すことで、あいつが持っている可能性ごと叩き潰す幻想に浸れた。
「……っう!」
俺はセシルの脚を鷲掴んだまま、内部に射精した。腹の中に精液が広がる度に、セシルは今にも死にそうな顔をする。薄い唇が謝罪の言葉を呟いていた。恋人か、ファンか、国か、誰に対しての謝罪か知らないが、俺との行為がセシルの精神を削っているのは間違いないらしい。
陰茎を引き抜くと、呆けているセシルの腕を掴んで引き起こした。そのままあいつの口に指を突っ込んで強引に開かせると、猛ったままの陰茎を押し込む。セシルの喉からくぐもった悲鳴があがったが、それも俺を楽しませる振動にしかならなかった。
「ほら、何ボケッとしてんだよ。痛がってばかりいないで、少しは俺に尽くす気概を持てよなっ!」
「ふっ……ぐ、ん゛っ! は……っぐえ゛えぇっ! お゛えっ!」
「喉使うんだよ! 喉! もうお前が歌う時間は終わったろうが。今度はオナホとして少しは使えるようになってみろや!」
セシルは顔を酸欠で赤くして、必死に俺から離れようとしていた。俺はセシルの頭を両手で押さえると、そのままあいつの口をオナホ代わりに自慰に耽った。快感と優越感で気が狂いそうだった。あれほど多くの人間を虜にして、俺を人生のどん底に追い落とした、あの歌声を奏でる場所を俺は存分に穢している。粘膜が信じられないほど熱く感じた。喉の最奥を亀頭で殴る度に射精しそうなほどの歓喜が全身を駆け巡る。セシルは目や鼻から体液を垂らしながら俺に憎悪の視線を向けていた。セシルがどれだけ音楽に情熱を込めているかなんて、少し見ていればすぐに分かった。セシルにとって、歌も、それを奏でる場所も単なる商売道具じゃない。セシル自身の生きがいで、愛の象徴で、救いだ。それを全て俺は踏みにじっている。それなのに今のセシルが出来るのは涙と鼻水に塗れた顔で俺を睨むことだけなのだ。その優越感! どれだけ言葉を尽くしても言い尽くせない快感だった。セシルの髪を強く掴み、喉にめがけて射精する。何度か出しているのに、その勢いは全く衰えなかった。
「おえ゛っ! げえぇえ゛えっ! ゲホッ、ゴホッ……う……ゲェ…………」
「少しはマシになったな。今の感覚を忘れんなよ」
両手を頭から離してやると、セシルは背中を丸めて激しく咳き込んでいた。腿に吐き出された精液が飛び散って新しい軌跡を描いていた。
「しかしまぁ、他の男の精液被った口で歌われてもファンは嬉しいのかねぇ」
「…………っ」
セシルは口元を片手で覆ったまま押し黙ると、残った精液をボタボタと吐き戻した。俺の言葉を聞きたくなかったんだろうが、そんなことをしても惨めなだけだ。俺はその姿を存分に嗤ってやった。ようやくセシルを少しだけ俺の元へ引き寄せられた気がした。