The Decline

「ねえ愛島君、今日一緒に飲みに行かないかい?」 「飲みですか?」  短期で放映される連続番組の収録をセシルが無事に終えた日の事だった。小さな番組とはいえ収録自体はそれなりに大変なもので、スタッフ同士健闘を讃え合い賑わうスタジオは大いに湧いた。その喧騒を掻き分けるようにして、ディレクターの男がセシルに声をかけてきたのだった。 「飲みだよ、二人で。今回の収録も無事に終わったし労いも籠めてね」 「わぁ、とてもステキです! 是非皆さんも誘って行きましょう!」 「いやいや、二人でだってば」 「二人……ですか?」 「うん。僕は仕事が終わったら色んな子に話を聞くことにしてて。他人がいると言いづらいこともあるだろうし、感想とか意見とか深いところまでじっくり聞かせてよ。僕も今後の仕事の参考にしたいんだ」 「なるほど。……分かりました! そういう理由でしたらワタシも協力します」  恐らく打ち上げであるのに二人きりという申し出にセシルは若干の違和感を覚えはしたが、男の熱意に推される形でセシルも了承した。男のディレクターとしての腕は確かで、まだ慣れない事も多い収録で何度も助けられた恩も有り、無理に断る理由は無い。それを聞いた男はセシルの背を押してスタジオを抜け出し、駐車場へと導いた。 「そういえば愛島君、明日オフって前に言ってたでしょ。少し遠出になるけど僕の取って置きの店に連れてってあげようか?何ならお代も持ってあげるからさ」 「ありがとうございます! ですが、それは結構です。こういう時はワリカンだと聞いています」 「良いから良いから。年上には甘えておくもんだよ」  男は屈託なく笑うと車のドアを開けてセシルを助手席に乗せた。日も落ちた中三十分ほど走ると人気の無い山奥に隠れるようにして、小規模の料亭が見える。  通された畳敷きの個室は品が良く、勧められただけあり料理も美味しいものだった。食事をしながらの会話も良く進み、撮影内容の長所短所、スタッフの動きから近年の芸能界の傾向まで多岐に渡って二人は語り合うことが出来た。その間、男はセシルが語る姿を、酒を傾けて眺めていた。  その様子は若い人材が台頭する様を、男が喜ばしく思っているように見えた。今後の為、相手との僅かながら繋がりが持てたことは、セシルにも喜ばしく思われた。 「ああ、良かった。本当に楽しい話が出来たよ」 「はい! こちらこそ勉強になりました」 「お礼と言っては何だけど、この店って僕にしか出さない裏メニューあるんだよね。それを君に頼んであげるよ。ノンアルコールの飲み物だし飲んでみないかい?」 「わぁ、良いんですか? ありがとうございます」  男は慣れた様子で従業員に注文をすると掌ほどの小さなグラスに氷が浮いている澄んだ飲み物が運ばれてきた。 「fantastic! 美味しそうですね!」 「そうでしょう。さぁほら、飲んで飲んで」  セシルは静かに液体を飲み干した。見た目よりも粘度のある甘味が喉を撫でる。その様子を男は和やかに見つめた。 「ん……不思議な味です……これが……大人の…………」 「おっと。愛島君大丈夫? 気分は?」 「クラクラします……暑いです……。すみません……気分が悪いのでタクシーを……」   男は力の抜けたセシルの肩を倒れないようにしっかりと抱いた。  疲労回復の簡単な魔法すら使えず、割れるような頭痛が襲い全身が怠くまともに動くことも出来なくなっていた。 「分かった。外人さんだし変な耐性あったらどうしようかと思ったけど、ちゃんと効いてるみたいで安心したよ。多めに使っといて良かった」 「え……? 何……を」  男が話している内容がセシルにはよく理解出来なかった。 「流石に若い子を押さえるの厳しい歳になってきたからさ。大人しく出来る薬を飲んでもらったんだよ。二人きりでこんな所に来てるんだから、これからすることも分かってるよね?」 「止めて……ください。……ただ食事をするとしか聞いていません。………それに……何を勘違いしているんですか? ……ワタシは男性です…………」 「ただの打ち上げを二人きりでやる訳無いでしょ。そっちが勝手に勘違いした癖にそんなの僕に言われても知ったこっちゃない」  息も絶え絶えに拒否の意を示すセシルに男は暴論を誇らしげに振りかざした。先程まで浮かべていた柔和な表情は下卑た笑みへと変わっている。セシルは警察へ連絡を取ろうと携帯の入っている鞄へ咄嗟に手を伸ばす。だが、男は一足早く部屋の外へと鞄を蹴り出した。 「言っておくけど助けを呼んだって無駄だよ。ここの料亭には個人的なコネがあってね。何度もこういう用事で使ってるから幾ら喚こうが誰も来ない」 「お願いですからもう止めてください……無理矢理こんな……卑怯な…………今なら……まだ間に合います。こんな間違ったことを……」 「善悪なんてもう問題じゃないんだよ。こっちがどれだけ苦労してこの瞬間まで漕ぎ着けたか……。前から目を付けてたんだ……止められるもんか…………」  男は目の前にある首筋を舌で辿ると噛み付くように口付けた。じゅるじゅると淫猥な音が部屋に響き、男は本気で自分を抱こうとしているとセシルは悟った。  既に行為に伴う拒否感で全身の鳥肌が止まらない。先ほどまでの穏やかな面影は男に浮かんでなどいない。同意も無く事に及べる男の精神をセシルは全く理解することが出来なかった。 「こんなことが許される訳がない! ……今は難しくても………必ず然るべき所に……話をします。アナタの横暴もこれきりです!」 「うんうん。最初はみんなそう言うんだよ。そんな態度がいつまで続くか見物だね」  男はセシルの訴えには耳も貸さず、肩を抱いていた腕を滑らせると一つ一つシャツのボタンを外し始めた。 「愛島君って他人からこういうことされるの初めてかな? 事務所が恋愛禁止令出してるもんねぇ」 「…………」  不躾な問いにセシルは答えようとせず、男を悦ばせないように目を閉じて沈黙を守った。だが眉間には皺が寄り、その表情は男を大いに悦ばせていた。 「無視しないでよ、寂しいなぁ。……しかし本当に綺麗だね」  露わになった少年の胸元に男の無骨な指が這った。吸い付くような膚の手触りに男の呼吸が荒くなる。改めて男が自分に欲情しているという事実を突き付けられ、セシルは逃れようと躰を揺らしたが男の腕に込められた力はより強くなった。  頑なな躰を解すように脇腹を撫でながら乳輪をなぞられると電流が走ったかのようにビクリと震えた。 「ん? 良かった?」  喜色満面に問う男をセシルは心底軽蔑した目で見返した。 「……いいえ゛っ!?」  答える最中に外気に触れて小さく勃ちあがっていた乳首を捻られ、無様に喉を晒す。耐えられず吹き出した男にセシルは羞恥と屈辱でただ赤面するしか出来なかった。 「ごめんごめん意地悪して。愛島君がお返事してくれたからつい嬉しくなっちゃって」 「…………っ」  男に身勝手に弄ばれる状況に耐えかねてセシルは歯を音が鳴るほど噛み締めて余所を向いた。だが男の愛撫は的確で、膚の薄い部分を擦られるだけで熱い息が零れる。躰の中心が熱を持ち始めじくじくと疼くのを自覚せずにはいられなかった。 「そろそろ辛いでしょ?下も触ってあげるね」 「いやです! やめて……」  セシルが必死に手で男の腕を押さえようとしても、男にとっては猫の子程の抵抗としか認識されず散々弄ばれた末に下着を脱がされた。 「へえ……やっぱり肌が黒いと此処もちゃんと黒くなるんだね。でも先っぽがピンクなの分かりやすくって可愛いねえ。忙しくって普段からロクに使えてないんでしょ?」 「……よくもこんな事を」  余りにも無遠慮で卑猥な物言いで己の物を批評されセシルは男をきつく睨みつけた。羞恥で耳まで赤くなっている状態でそのような威嚇をしても返ってくるのは男からの嘲笑なことにセシルが気づくことはなかった。  垂れ流された先走りを男は見せつけるように手に擦り付けると、それを潤滑油代わりに扱き始める。セシルは唇を噛み締め男の腕の中でびくびくと躰を震わせた。力が抜けて男に更に体重を預ける格好になってしまうが、その事に屈辱を感じる余裕は既に無い。個人でしか知らなかった快楽が強制的に押し付けられる。悍ましく、強い羞恥を伴う行為にセシルは手脚を暴れさせ感覚を逃がそうと最後まで抵抗したが、遂にその瞬間は訪れた。 「……うう……っ……!」  吐き出されたそれは飛び散り、カルキ臭を放つ。セシルは余韻に力無く躰を震わせた。彼の心を支配しているのは男への静かな怒りと耐えられなかった自身への絶望だった。 「可愛かったねえ……。愛島君っていつも可愛かったけど近寄りがたい所があったからさ、人間なんだなって思えて僕は嬉しかったよ」  腕の中で痴態を晒すセシルに男はこれ以上ない程に欲情した。  初めて仕事場で見かけた時から何度も脳裏で描いてきた光景が遂に実現したのだ。決して逃げられないように力を込めて抱き締めると、目の前の首筋に顔を埋めた。 「ねえ愛島君、もしかして耳って感じちゃう方なの?」  男は軽く息を吹きかけるとセシルの躰は弾かれたように跳ねた。 「ひっ……んんん゛っ! やだっ……あああっ」  じゅるじゅると音を立てて耳元を吸われると自分でも信じられないほどはしたない声があがった。快楽と困惑にセシルは息を呑んだが、男はその様に唇の端を吊り上げた。 「そんなかわいい声が聞けて僕嬉しいよ。普段からそうなの?」 「ち、違……違います!」  自慰で喘ぐことなどセシルにはなかった。だが男に与えられる快楽は普段とは全く異なる物で、一方的に其れに翻弄されるしかなかったのだ。  他人に触れられるといつも感じている感覚とは全く別の痺れるような快楽も、自分がこんな箇所で感じてしまうこともセシルが知る機会は今まで無かったのだから当然だ。本来愛する相手と喜びを伴って知るべき事実は恐怖と屈辱を伴ってセシルに宣告されたのだった。 「じゃあ僕が初めて聞けたんだね。嬉しいなぁ」  気をよくした男の愛撫は激しさを増した。セシルは唇を噛み締め感覚を押し殺そうとするが、それでも手から水が擦りぬけるように甘い声が洩れてしまう。微かに聞こえる声に男は更に興奮を煽られ、余すことなく性器を蹂躙し刺激していく。抑えきれない官能が男の手の下で何度も爆ぜた。 「んっ……はぁ……あああっ! い゛……はっ……ぐっ……」 「愛島君さぁ気持ちよさそうなところ悪いんだけど、タイミングがドンドン早くなってるの分かってる? 将来女の子抱くとき大丈夫なの? ドン引きされちゃうよ」 「よっ……けいな…………お世話…ですっ……」  語調だけは強いものの既に呼吸すら覚束ないセシルは男が手を離すと力無くその場に倒れ伏した。その姿の滑稽さに男は笑いながら言葉を続けた。 「そんなこと言わないでよ。こんな風にしちゃって僕も申し訳ないし、良い機会だから愛島君を女の子にしてあげるよ」 「何を……言ってるんですか……? それに……もう終わりでは……?」 「終わりな訳ないよ! あんなの唯の前戯だよ、前戯。それにまだ愛島君しか気持ち良くなってないでしょ。僕も良くしてもらわなくっちゃ」  自分のベルトに手をかけた男はズボンを床に落とすと、セシルに突き付けるようにして己の物を取り出した。  だが目の前にぶら下げられたのはセシルが知っている其れではなかった。 「……は? 何ですか……それ……」 「何って見れば分かるでしょ。男なら誰でも付いてる物だよ」  それは子供の腕程ある大きさと太さの唯でさえ異常な性器に、真珠や刺などが大量に埋め込まれて凹凸を形成しており、最早人体の一部というより怪物と形容した方が正しい代物だった。 「そんなの知らないです……意味が分からない。ワタシにそんな気持ち悪い物を見せて何が楽しいんですか……?」 「これ見せるとみんな愛島君みたいな反応するんだよ。高慢ちきな女優も可愛いモデルもみんなピタッと止まって顔が引き攣っていくのを見るのが最高に好きなんだ。今僕はとても楽しいよ。…………そういえばまだ具体的な方法を言ってなかったね」  男は心底楽しげに唇の端を歪めると、秘密を懺悔するようにセシルの耳元で囁いた。 「〝これ〟を愛島君の尻の穴に挿れて女の子にしてあげるんだよ」  男の言葉を理解した瞬間、薬と快感で赤みが注していたセシルの顔は血の気が引き一気に青ざめた。男は予想通りの様を見て満足げに嗤うと、半ば突き飛ばすようにセシルを部屋の隅に積まれた座布団の山へ倒した。 「心配しなくっていい。別に死ぬことはないから安心して僕で処女喪失するんだよ」 「ふざけないでください! どう考えても無理です! やめて! そんなの入らないです! 入るわけがありません!」  命の危険を感じたセシルは文字通り死に物狂いで暴れた。  気を抜くと動かなくなる躰を無理に動かし男の腕を振り切ると、セシルはテーブルの上に残っていたビール瓶を咄嗟に掴んで投げつけた。瓶は壁にぶつかり破片と酒の飛沫が周囲に降り注ぐ。男にも容赦なくそれは飛び散り幾つかの破片が腕へと深く突き刺さった。 「いってえ! …………愛島てめえ!」  破片を引き抜いて此方を向いた男の形相は別人のように変わり、逃げようとしていたセシルは恐怖に身が竦んでしまった。男は扉へと指をかけていたセシルの腕を容易く掴むと床に押し倒し、片脚で胸部を踏みつけながらしゃがみ込んだ。 「入らないじゃねえんだよ挿れるんだよ。いつまでも往生際悪くギャーギャー喚くんじゃねえ! てめえ、顔が商売道具なことを感謝しろよ……そうじゃなかったらこの瓶で母親でも分からない顔になるまでぶん殴ってたんだからなぁ!」  抵抗しようにも豹変した男の剣幕は有無を言わさぬもので、次に抵抗した時に何をされるか考えるだけでセシルは動くことが出来なかった。男の行いは間違っていると確信していたが、その圧倒的な暴力の前で今のセシルはあまりに無力だった。胸部が圧迫される苦しさで咳き込み、目に見えるほど震えるセシルを見て男は最後に強く体重をかけると漸く足を退かした。 「慣らしてやろうと思ってたがやめだ。上下関係すら理解出来ない馬鹿なガキにはキツい仕置きが必要だからな」  男は力無く頭を振るセシルを元の場所まで引き摺ると、膝を腕に抱えて脚を開かせ逃れられない体勢に持ち込む。 躰が恐怖で萎縮したのが伝わるが、男はそのまま硬く閉じている後孔に物を当てるとゆっくりと押し込み始めた。 「い゛いいっ……! ……ぎ……っ!」  薬で躰は弛緩しているとはいえ、やはり潤滑油も使わずに男の肉棒を受け入れるのには無理がある。こじ開けるようにして先端を押し込むと同時に神経が切れる嫌な音が響いた。内部の抵抗が増して侵入はそこで止まったが、生暖かい血が床に零れた。セシルは目を見開き凄まじい痛みを耐えるように荒い呼吸を繰り返す。男はその様を鼻で嗤うと杭を打ち込むかのように腰を突き上げ始めた。ジリジリと肉棒が後孔へと捻じ込まれる。本来快楽を引き上げる為に男に埋め込まれた凹凸が一つ一つ柔らかな内部を抉った。  躰を裂かれる痛みと増していく圧迫感にセシルは苦痛に満ちた唸り声をあげた。 「……何だその様は、まだ半分も入ってないぞ。……気分はどうだ? 辛いか?」  勝利宣言にも似た男の問いにセシルは黙って見つめ返した。既に答えることも出来ない程にセシルは消耗していたが、その眼に哀れみが籠もっている事を男は見逃さなかった。  一方的に快楽と苦痛を強制され続け、互いへの情を交換する為の行為をこのような形でしか行えない男にセシルは哀れみを感じ始めていた。  予想外の反応に男は数秒呆気にとられた後凄まじい怒りに身を震わせた。幾人も肉体と恐怖で蹂躙し平伏させた男だったが目の前の少年に真の意味で通用しせず、逆にその行いの矮小さを突き付けられる形になってしまった。ここまで陵辱しても折れない精神の気高さは男を痛烈に煽った。 「……気に入ってくれたみたいで安心したよ」  男は吐き捨てるように言うとセシルの中から陰茎を引き抜き始めた。腸の粘膜がそれに連れて無理矢理剥がされ、セシルは与えられる痛みに眼を閉じた。途中まで引き抜いた後今度は側面を擦り付けるように男は突き入れた。凹凸がより深く内部を切り裂き血が止め処なく流れる。何度も抽挿が繰り返され、その度に押し殺すように洩れる苦痛に濡れた声は男を束の間の優越感に浸らせた。  内部の強い締め付けにこれ以上無いほどに男は快楽を感じていたが、セシルにとってはただ激痛を伴うものでしかないという事実も充分な興奮材料となった。男は腰を引くと勢い付けて最奥まで内蔵を殴るように突き入れた。 「ぎゃあぁあぁあああ゛ああ゛あぁああ゛あぁっ!」  あまりの衝撃の大きさにセシルは悲鳴をあげて躰を暴れさせたが、それを予想していた男は上からのしかかり、無理に押さえ込まれた関節が滅茶苦茶に軋んだ。内と外から圧迫された胃の内容物が逆流し窒息寸前の状態でセシルは無様に痙攣することしか出来なかった。  その腹は男のグロテスクな肉棒に押されてぶっくりと醜く膨らんでいた。男はそれを満足げに撫で上げると下卑た笑みへと表情を戻した。 「さて、もう充分反省できたね? あーあ、すっかり萎えちゃって可哀想に。これからはもう痛いことはしないよ」  男は未だ苦痛の余韻に震えるセシルの項に注射針を突き立てた。琥珀色の液体がゆっくりと注入されていく。 「死んじゃうかもしれないから本当はこれ使いたくなかったんだけど、愛島君まだまだ元気そうだし折角だから沢山気持ち良くなろうね」  空になった注射器を投げ捨てた瞬間、効果は如実に表れ始めた。視界か歪み鼓動が煩いほどに鳴り響く。全身の感覚も変化し痛みが鈍化して信じられないほどの熱を帯び始めた。  男が再び腰を引いた時に訪れた感覚は、先程までの痛みではなく痺れるような快感だった。 「あっ……は…ぁ゛……な……にを…………っ!」 「これでちゃんと僕の子供が妊娠出来るね」  男は次第に形を取り戻すセシルの物を見ると安心したように顔を綻ばせた。 「ひ……い゛っ……そんなの……っ……無理です……ああっ!?」 「そんなことないよ。愛島君は本当は女の子だったんだ。ほら」  男は抉り込むようにある一点を付くと、声を耐えようとする意識も手放しセシルの躰はがくがく壊れたかのように震えた。 「子宮突かれてるの分かるでしょ。普通はこんな所に突っ込んでも痛いだけさ。愛島君はここに子宮があるから気持ちいいんたよ」 「そんなっ……そんなの……っあ゛ああっいやっ……はぁ……ああっ!」  今まで感じたことのない感覚に声も抑えられずセシルは悲鳴をあげた。後孔がそのような感覚をもたらす場所であると知らず、快感と同等以上の恐怖を覚えた。男の言っている内容は冷静に考えれば有り得ない脅し文句だが、既に未知の感覚を味わされているセシルにとって起こり得る可能性に思えた。セシルの動揺を見て取った男は内心で快哉を叫んだ。  そして更に獲物を追い詰める為に、藻掻く頭を押さえ込み追加の薬を注射した。感覚と精神を狂わせる麻薬の効果は絶大だった。感じていた苦痛がそのまま凄まじい快楽に変換されて脳裏を駆け巡る。一般的な性感帯に触れられてもいないのに後孔だけでそれらを圧倒的に凌駕する感覚。最早何も考えられなかった。 「あ゛ぁあぁあアあああぁあああ゛ああぁあ゛ああ!」  穿つように弱い部分を突かれセシルは獣のように叫びながら絶頂を迎えた。 「初めてで中でイケるなんて偉いね」  男に背を擦られながらセシルは信じられない思いで腹まで飛び散った液塊を見つめた。こんな事ならば苦痛が延々続く方が余程マシだった。これは暴かれた自身の浅ましさと淫猥さの証明であり男の主張の証拠なのだ。歪められた認識がセシルの精神を糾弾し、気が狂いそうな程の恐怖に浸けられた。  男はその様を見るとまだ追い討ちをかけるように容赦なく抽挿を再開する。僅かに取り戻された冷静さは霧散し過敏な躰は快楽を貪った。 「い゛やっ……イヤです! 誰か! 誰か来てください! ……っ……イヤ! イヤなんです! 本当にいやなんですうう゛ううっうっ! にげっ……られないんです……あっは……はぁっ……んんっ……たすけてもらうしかあ゛あああぁああっ! あっあっあっ……やだっやだっ……だれかあ゛ああ゛ああぁっ!」  必死の懇願は男の耳を楽しませるだけで虚しく壁に反響する。細腰を男に抱え込まれ強制的に反らされた躰を暴れさせるその姿は痛々しく、普段の朗らかな彼を知る者が見たら目を背けたくなる程悲惨だった。嬌声が混じるのを恥じる余裕もなく助けを求めるセシルの精神が限界に近いことを男は悟った。 「最初に言ったよね? 誰も来ないんだよ。ねぇ、割り切って一緒に楽しもうよ。責任なら取ってあげるからさ。……ああ、でも愛島君が子供産んだら僕ってアグナパレス……だっけ、そこの王様になっちゃうんだなぁ……大出世だ……嬉しいなぁ」 「やだぁあ゛あぁあああ゛ぁあああッ! 産みたくないですっ! なにも産みたくない゛っ! やめて! やめてください! ううっうっ…ぐっ……! あっあっあっ……ああぁあっ! なんでだれもきてくれないんですかあぁああぁああ゛あっ!」  悪魔の囁きはある筈のない器官の存在を、腹から産み出る忌み子を、それを抱いて帰国する自分を鮮明に浮かび上がらせた。セシルは何度も絶頂を迎えながら半狂乱で子供の様に泣き叫ぶと、糸が切れたように倒れ伏し躰を震わせすすり泣いた。抵抗手段を執拗に潰され男に犯され妊娠の恐怖まで植え付けられた衝撃は余りにも大きいものだった。 「お願いします……誰か……誰か助けて………っあ…独りにっ……しないで……ひとりはいやです…………」  泣いても叫んでも誰も来ない。誰も助けてくれない。その現実は容赦なく精神を抉る薬と相まって幼年期の記憶を呼び起こすまでにセシルを痛めつけていた。  年月の経過で忘れていた、国中から浴びせられていた冷徹な眼と孤独を鮮明に思い出す。己の存在を忌み遠ざけていた人々。血が異なる母親を憎みそれを継ぐ自分を疎んだ彼等の思いを皮肉にもセシルは腹に居ると思い込んだ存在で僅かに理解してしまった。  このような者を誰が進んで愛し、助けようと手を差し伸べるだろうか。長年無意識に封じ込めていた憎しみと悲しみが胸を突いた。今も昔も、国が違っても、変わることはなくセシルに突き付けられているのは深い絶望だった。 「あれ? なんか変な方向にキマっちゃったかな? 面倒くさいなぁ……。ダメだよ愛島君。これは頭からっぽにして気持ち良くなるためのお薬なんだから」 「……いやです…………こわいんです……もう家にかえして……」 「大丈夫大丈夫。俺が気持ち良くしてあげるから何にも怖いことはないからね」  男は挿抜を止め、しゃくり上げるセシルの髪を優しく撫でた。その指通りの良さに沸き立つ興奮を男は必死で噛み殺す。 「そんなに一人が嫌なら僕の子供沢山産めるよね? 家族いっぱい作れば寂しくないからね」  セシルは力無く顔を上げて、ただ男を縋るように見つめた。 全ての元凶が眼前の男であり、それに縋るのがどれ程惨めで矛盾した行為であるかを理解する余裕は彼に無かった。そもそも男は子を宿せないことも、皇子である自分がこんな男と子を成したら身の破滅であることも、何時間も出鱈目を吹き込まれ脅かされ疲弊しきった頭ではもう何も分からなくなっていた。世界はこの牢獄にも似た一室だけで、実体があるのが目の前の男だけのような気がした。昨日まで当たり前に光り輝いていた日常が信じられないほど遠くに在る。既に自分が其処へと戻れないことをセシルは理解し、その事実に為す術も無く打ちのめされた。  長い沈黙の後、翡翠色の瞳に溜まった涙が薄暗い部屋で弱々しく輝くと、セシルは頷き男の首に腕を回した。  男はその姿に背筋が震えるほどに欲情した。側で仕事をし、笑顔で歌うセシルを眺めていた時より強い満足感を得た。セシルのこんな弱く憐れな姿を同じ事務所の仲間達でさえ知ることは無い。男ただ一人に見せたセシルの一面であり今この瞬間、男はセシルが必要とする唯一の存在と成ったのだ。  それが危険な薬品と忘れかけていたトラウマを抉り出す卑劣な手段で本来の精神を滅茶苦茶になるまで歪め、無理矢理引き出した結果であろうとそんなことはどうでも良い。誰もが憧れる星を手中に握りこんだ征服感だけに男は打ち震えた。 興奮の儘に腰を打ち付け奥深くで精液を放出した。 「あぁあああぁあああぁあっ!」  セシルはもう拒むことなく嬌声をあげ、男の背に深く爪を立てた。未来の花嫁に捧げられる筈だった子胤が幾度も無意味に床に飛び散った。 「手を……っ……あ…ああああああっ……はなさないでっ…………一緒に…………」  何度も突かれ叫びながらも、長い脚を男の腰に絡ませ、セシルは男を強く求めた。  男はその言葉に耳を傾けること無く、愛しげに締め付けてくる内部の感覚にただ翻弄されていた。  何時間が経過したのだろうか。精液が底を尽いた男は漸く肉棒を引き抜いた。過敏になった肉壁が元のように重なりセシルは余韻に身を震わせた。憔悴しきった瞳に力は無く、空虚さだけがぼんやりと映っていた。  男はその様を見て口元を歪めると煙草に火を付けた。 「さてと……もう大丈夫だからね。次は僕の友達もいっぱい連れてきて可愛がってやるから。きっと寂しい思いはしないよ」 「……はい。……………はい……」  男の肩に回した腕に力を込め、答える少年の浅黒い肌に、後孔に収まらなかった白濁が音を立てて醜く垂れ落ちていた。

初めて書いたモブセシでした。

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