あるオフィス街にて
愛島セシルは僕にとって、なんというか、〝生きがい〟みたいなものです。
いや、笑わないでくださいよ。言えって言ったのはそっちでしょう。……まぁ、確かに、変な話ですよね。僕みたいな男が、アイドル、それも男性アイドルに入れ込んでいるんですから。
そう変でもないって? ありがとう。あぁ、最近ではこういうの推し活って言うんですか。へぇ~、誰かに入れ込むのを社会が肯定するなんて変な時代になったもんですね。
どこがいいのか、ですか。それはまぁ、セシルはすごいアイドルですよね。僕は昔はこういうの全然興味がなかったんですけど、仕事の絡みでライブを見る機会があったんですよ。
……夢、みたいでした。いや、あの時僕は夢の世界にいたのかもしれません。すごいんですよ。彼の指先がすっ、と伸びるだけでもう目が離せない。あのオーラ。そして紡ぎ出される神秘的な歌声。綺麗ですよ、彼の声は。王道アイドルって感じの歌い方じゃないんですけど、なんだかそれもまた不思議な魅力があって……何度も聞いてしまうんです。
最近の彼はもうすっかり日本に慣れて年相応の可愛らしい様子を見せることが多いんですけどね、ライブになると一気に大人びて、清廉な色気があって、まるで別人みたいなんです。それもまた一種の魔術のようで、もう一度確かめる為にライブに足を運びたくなるんですよ。
ガチ恋じゃないかって、また変なこと言いますね。美術品に恋する人間が……まぁそれは割といますね。なんなんでしょうねぇ、違うんですよ。僕は彼に自分の持てる全てを捧げている、それだけで幸せなんです。恋とか、そういうものではないんです。
仮にセシルが明日誰かと恋人関係を発表しようとも僕に取っては何も変わらないんです。……そうなのかな、それはちょっと分からないですけど、でも僕は今のところセシルとどうこうなりたいとか考えてはいないんです。
それだけ彼は僕にとって神聖で、美しい存在なんです。山に登って眺める朝日のような、憧れをもって眺める遠くの街のような、そんなものが誰しもあるでしょう。僕にとってはそれが愛島セシルなんです。
一度ライブに行ってみたい? 僕のこんなつたない話で、そう思ってくれて嬉しいですよ。近いうちにライブがまた開かれるんです。美しい夢をまた僕は見られる。それだけで生きてて良かったと思えます。ああ、話してみて分かりました。やっぱりセシルは僕の生きがいなんでしょうねぇ……。
一人称小説習作
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