普遍的な祈りの情景
「珍しいですね。こういう本も読むなんて」
「ええ。人の心の支えになるものは何でも知っておきたいのです」
きっと未来で役立つからと、セシルさんは分厚い背表紙をなぞった。長い歴史で人々に寄り添い続けた信仰は、わたし達とは祈る相手が違っていても美しく見える。
「オトヤが貸してくれました。入門編なのだそう。読みやすくて助かります」
「良かったですね。そういう音楽は参考で聞いたりしますけど、やっぱりどういう祈りなのかって知っていると全然違うんでしょうね」
わたしがセシルさんの隣に腰掛けると、彼は何ページかパラパラと捲って見せてくれた。そこに書いてある祈りは、わたしが知っているものと似ているようで少し違っている。
「祈りと想いがあり、それを神に伝える音楽がある。少し懐かしい考えです」
「もともとセシルさんが触れていた音楽はそういうものでしたよね」
「ええ……」
セシルさんは遠くを見るような目をして、低い声で歌を口ずさんだ。
故郷の歌だということはすぐに分かったけれど、まだ具体的な意味はわたしには分からない。それでも想いを込めて訴えるような切実さだけは伝わった。
昔より大人びた彼の横顔に異国の風景を見たような気がした。
練習で書いた本当に短い話。「救済」「人類」「本」の三題話でした。
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