キメセク習作1
蛙でも鳴くような下品な笑い声が響いた。それはセシルにとっては既に耳慣れてしまったものだ。次は何をされるのか、そんなことを考えるのも嫌でセシルは横になったまま無反応を貫いた。未だ躰の至る所が痛む。
男はそんなセシルを心配する様子もなく、何かの機材を操作しているらしい。薄暗い部屋の明かりが消され、辺りは先も見えない暗闇に包まれた。
それも一瞬の話で、壁に映像が投影されることで、再び部屋には光源が戻る。
スピーカーから流される音を聞いた瞬間、セシルは身を固くした。
『皆さんに会いたかった! 今日は共に楽しみましょう!』
割れんばかりの歓声、自分の歌声、何よりも恋しい旋律。こんな所へ来る前、最後に行ったライブ映像だった。
「ほら、セシル君起きて。折角事務所からアーカイブ借りてきたんだから。君のいた事務所は便利だね、まだDVDで売ってない映像も自由に見れるんだから」
今、それだけは見たくない。その一心でセシルは抵抗しようとしたが、残された体力ではその場で僅かに身悶えすることが精一杯だった。当然そんな抵抗が通用する訳もなく、男はセシルに背後から抱きついて、目線を強引に映像へ向かせた。
粗い画質の先にあるのは無数の光、何も穢されていない自分自身、紡がれる愛、確かに存在した理想郷がセシルを何より苦しめる。もう二度とこの場所に戻れないかもしれないと考えるだけで息が詰まる。固まった筋肉、引き裂かれ焼け爛れた膚、掠れきった喉、穢された精神――何を取っても違う。分かり切った間違い探しだった。もう此処には帰れない、今解放されても戻る資格などセシルには無い。見ないようにしていた現実が突きつけられる。瞬く間に血の気が引いていくセシルの顔を見て、男は再び笑い声を洩らした。
「あんなに綺麗だったのにねぇ」
男が耳元で囁く言葉に簡単に傷ついてしまう程、セシルの精神は追い詰められていた。
「ほら、僕達も共に楽しまなきゃ」
腕を男に掴まれたその時、何をされるのかセシルははっきりと理解した。だが拒絶しようと暴れれば、玩具に逆らわれることを嫌う男から更に酷いことをされる。セシルは無言でされるがままになっていた。
男はそんなセシルの左耳に舌を這わせながら、注射器を取り出す。それを見るだけでセシルは込み上げる吐き気を抑えた。腕に銀色の針が突き刺さり、中身の液体が注入されていく。既にセシルの全身のあらゆる箇所に注射針の痕は点在していた。薬が全身を巡っていくにつれて、体温が上がり、感覚が狂っていく。視界が潤み、歓声や旋律が歪んでいく。
いっそ理性も壊れる程薬を打てば良いとセシルは何度願ったか知れなかった。だが男は必ずセシルが現状を認識出来る程度の量しか使用しない。どれだけ自分の躰が惨めに堕ちるかを自覚させようとしているのだ。
「はっ……は……ひ…………っ!」
「辛そうだねぇ。でもまだライブは始まったばかりなんだから頑張ってよ」
息を荒げて身を固くするセシルを見て男は笑った。
「この曲好きなんだよねぇ、まだ歌えるの?」
「……今、何も言わ、ない……で……っ!」
「それは無いよ。折角当事者がいるんだから裏話とか聞きたいのに」
「ゔわぁあ゙あ゙っ!」
男が背後から躰を擦り寄せるだけで、セシルは悲鳴をあげた。変えられた感覚は膚が擦れる感触だけでおぞましい程の快楽を得る。男はそれを知りながら腕を巧みに這わせていった。
「やだっ! やめてぇっ、やめてください゙! ……っあ゙、く…………ゔ!」
「僕の質問に答えないなら黙っててよ。セシル君の歌が聞こえないだろ?」
「ひっ、ひ……い゙い゙っいいぁあ゙ああぁ!」
「あーあ、もう我慢も出来ないくらいになっちゃったのか」
呆気なく床に飛び散った白濁を見て、男は苦笑する。背後からはセシルの表情は見えないが酷く震えている膚の感触だけで男はセシルの受けている衝撃を手に取るように理解していた。
「自分のステージ見ながらイケるような変態に付き合う僕の身にもなってくれるかい?」
「ワタシだってそうしたい訳ではない! ……っぁ」
「ケツ穴に指突っ込まれただけで喘ぐような子に言われても説得力皆無なんだよね」
既に何度も暴かれている箇所への刺激は劇薬同然だった。頭が割れるように痛む不快感と脳裏が白むような快感が体内で滅茶苦茶に掻き回されて、セシルはただそれに翻弄されていく。思わず俯けば、すかさず髪を掴まれた。強引に画面へと視線が向かされる。紙吹雪が舞い、光に溢れた夢のような景色と、セシル自身を苛む現状は残酷なほどに乖離していた。いっそ全てが現実味の無い夢のように思えて、セシルは与えられる快楽に喘ぐ。
思考ごと理性を投げ出そうとした瞬間に、内部を何より太い塊が抉った。
「ゔわぁあああ゙ああ゙あ゙ぁああ!?」
「やっぱ思った通りだわ。全盛期の映像見ながらアイドルをオナホにすんの最高っ! こんなに、愛されて、みんなが憧れてたのにっ! 末路はこんな底辺人間のオナホなんだから哀れなもんだよなぁ! 育成コスパ最悪だよ」
男はセシルを抱え込んだまま滅茶苦茶に腰を動かした。新鮮な血の臭いが部屋に満ちるが、当のセシルは薬のせいで感覚を全て塗り替えられている。汚らしい水音と悲鳴が歌声に混じる。
「いや゙ぁっ! もうやめて、っあ、嫌だっこれ以上、ワタシをっお゙、穢さなぁあ゙あ゙あぁ!」
「嫌だって声じゃねえだろうが媚びやがって! ぜってぇ許さねえぞ死ぬまで精液絞らせてやるからなぁ!」
何より熱い汚濁が腹に流れ込む。何度味合わされたか数えるのも諦めた感覚だったが、セシルは慣れることなど出来なかった。視界に広がる光が滲んでいく。男の笑い声が全ての音を掻き消していった。
短いけど久々にスラスラ書けて嬉しかった話。
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