カーテンコール・スクラップ

都内某所の楽屋

 二人が楽屋に入った瞬間、その場を片付けていたスタッフはやや目を見開いた。失礼しました、と呟いた彼が抱えていた物に気がつかないほどレンとトキヤは鈍い男ではない。 「気を遣ってくれたんだろうけど……ね」 「仕方がありません。今となってはあの雑誌が置かれていない場所を探す方が難しいですよ」  仲間の醜聞を独占で書き立てているその雑誌は、大衆の好奇、僻み、怒り等を煽り異例の売り上げを記録しているらしかった。本来であればここまで騒ぎが大きくなる前に事務所がある程度動く筈だが、今回はまるで此方の手の内が見えているかのように動かれて対応が後手に回っているらしい。記者からこの件に関する質問をされたら流すようにと箝口令が敷かれていた。  だがそのような命令を受けなくとも、自身が知っている情報など所詮は上澄みに過ぎないと二人は最も理解している。二人の知る渦中の人物はこのような醜聞とは最も遠いアイドルの筈だったのだから。  最初に重い沈黙を破ったのはトキヤだった。テーブル脇の椅子に腰掛けた彼は、雑誌が置かれていた箇所を指でなぞった。 「様々な噂が流れています。ですが彼に限ってあんな事をする必要は無い筈です。……きっと余程の事情があったに違いないと私は考えています」 「……あれは間違いなく嵌められたんだよ。あの表情を見れば分かる。でも――」  そこまで続けて、レンは出口を見失ったかのように黙り込んだ。その沈黙には限られた者達だけが知る疑問が含まれていた。 「どうしてそんな選択をしたのでしょうか。何故? 彼にはいつも彼女が寄り添っていたのに。……誰も一人にしなかったのに」  トキヤがもどかしげに口にした疑問は共有こそされ、解決されることはなかった。
back             Next